雛祭りという名のホラー

今週のお題「雛祭り」

 

「雛祭り」と聞いて思い出されるのは、小学生の頃見た悪夢だ。

当時、父方の祖父母の家には七段飾りの立派な雛飾りがあった。

「あなたのお雛様だよ」

と祖母に言われ、雛飾りの前で誇らしげな顔をした私が写る写真が残っている。

小さな人形に綺麗に描かれた顔や、丁寧に着せられた着物を見るのが好きだった。

7歳下の妹が生まれてからは、2人のお雛様となり、なんだか少し気持ちが離れていた時期があった。

 

小学5年生の頃、あの夢を見た。

 

とてもリアルな夢だった。

私は当時住んでいた借家の居間で朝のニュースを見ていた。

女の子の片目が何者かに傷つけられたというもの。

画面に映った女の子は眼帯をしていて、その子の腕の中には片目が潰れた雛人形が抱かれていた。

レポーターは言った。

 

雛人形を大事に扱いましょう」と。

 

私はなんだか恐ろしくなって、隣家の幼馴染の家に走った。

出て来たのは幼馴染の妹で、その子の目には眼帯がついていた。

奥から幼馴染の母親が雛人形を抱えてやってきてこう言った。

 

「人形、大事にしてる?」

 

抱えた雛人形の片目は潰れていた。

 

35歳になる今になっても鮮明に覚えている夢である。

その夢を見てからは、自分の雛人形をとてもとても大切に扱った事は言うまでもない。

 

作り手が丁寧に作った美しい代物。

その作り手と私の誕生を喜び購入してくれた祖父母と両親に感謝して、35歳のひな祭り、雛人形に想いを馳せる。

 

人形と言えば、思い出すのは乙一著「優子」だ。

著者デビュー作となる「夏と花火と私の死体」の文庫版に収録されている書き下ろし小説。

主な登場人物は、人形職人だった父親を亡くした少女・清音、清音が女中として仕えている小説家の政義、政義の妻優子。

政義の家で女中として働いていた清音は、病気で部屋から出てこない優子の存在が気になっていた。

頑なに会わせようとしない政義の態度、2人分の食事を用意しても優子の分の減りは少なく、

翌日から食事の量を減らしてくれと頼まれる。

そして見つけてしまった人形の空箱。そんな日々に清音はある疑惑を抱く。

ここから壮絶な行き違いが始まる。

 

 

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

  • 作者:乙一
  • 発売日: 2012/11/15
  • メディア: Kindle
 

 

 

「夏と花火と私の死体」ももちろん面白い。

ただ、読んだ当時の私は「優子」の展開に度肝を抜かれた。

美しい、恐ろしい、切ない、やるせない。

一人称の叙述トリックにグッと引き寄せられる作品。

 

楽しい雛祭りももちろん良いが。

少しホラーな雛祭りを楽しんでみられても良いかもしれない。